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IP(7) Linux Programmer's Manual IP(7)

名前

ip - Linux IPv4 プロトコルの実装

書式

#include <sys/socket.h>
#include <netinet/in.h>
#include <netinet/ip.h> /* 上記のスーパーセット */

tcp_socket = socket(AF_INET, SOCK_STREAM, 0);
udp_socket = socket(AF_INET, SOCK_DGRAM, 0);
raw_socket = socket(AF_INET, SOCK_RAW, protocol);

説明

Linux は RFC 791 と RFC 1122 で記述されている Internet Protocol, version 4 を実装している。 ip には RFC 1112 に準拠した level 2 マルチキャストの実装が含まれている。 またパケットフィルタ機能を含む IP ルーターも実装されている。

プログラミング・インターフェースは BSD ソケットと互換である。 ソケットに関するより詳細な情報は socket(7) を参照のこと。

IP ソケットは、 socket(2) 関数を socket(AF_INET, socket_type, protocol) のように呼び出すことで生成される。 指定できるソケットタイプは 3 つあり、 tcp(7) ソケットをオープンする場合 SOCK_STREAMudp(7) ソケットをオープンする場合 SOCK_DGRAM、 IP プロトコルに直接アクセスするために raw(7) ソケットをオープンする場合には SOCK_RAW である。 protocol は送受信される IP ヘッダに書かれる IP プロトコルである。 指定できる値は、 TCP ソケットには 0 か IPPROTO_TCP、 UDP ソケットには 0 か IPPROTO_UDP に限られる。 SOCK_RAW に対しては、 RFC 1700 で定義されている有効な IANA IP プロトコルを、 割り当てられている番号で指定することができる。

あるプロセスで、やってくるパケットを受信したり 接続要求を受けたりしたい場合には、 そのプロセスはローカルなインターフェースアドレスに、 bind(2) を用いてソケットをバインドしなければならない。 あるローカルな「アドレスとポート」のペアに対してバインドできる IP ソケットは一つに限られる。 bind(2) の呼び出しで INADDR_ANY が指定されていた場合は、ソケットはローカルなインターフェースの すべてにバインドされる。 listen(2) または connect(2) がバインドされていないソケットでコールされると、 そのソケットは自動的にローカルなアドレスを INADDR_ANY にセットし、空いているポートをランダムに選んでバインドする。

SO_REUSEADDR フラグがセットされていない場合には、 バインドされていた TCP ローカルソケットアドレスは クローズされた後しばらくの間使えなくなる。 SO_REUSEADDR フラグを使うと TCP の信頼性を低下させるので、 使うときには注意が必要である。

アドレスのフォーマット

IP ソケットアドレスは、 IP インターフェースアドレスと 16ビットのポート番号の組み合わせで定義される。 IP プロトコルそのものはポート番号を扱わない。 ポート番号は、 udp(7)tcp(7) といった、上位のプロトコルで実装される。 raw ソケットでは、 sin_port が IP プロトコルにセットされる。


struct sockaddr_in {

sa_family_t sin_family; /* address family: AF_INET */
in_port_t sin_port; /* port in network byte order */
struct in_addr sin_addr; /* internet address */ }; /* Internet address. */ struct in_addr {
uint32_t s_addr; /* address in network byte order */ };

sin_familiy には常に AF_INET をセットする。これは必須である。 Linux 2.2 では、このセットを忘れると ほとんどのネットワーク関数は EINVAL を返すようになっている。 sin_port にはポート番号をネットワークバイトオーダーで指定する。 1024 未満のポート番号は 特権ポート (privileged ports) と呼ばれる (予約ポート (reserved ports) とも時々呼ばれる)。 特権プロセス (CAP_NET_BIND_SERVICE ケーパビリティを持つプロセス) 以外のプロセスは、これらのポートには bind(2) できない。 IPv4 プロトコルそのものにはポートに関する概念がない。 ポートは、 tcp(7)udp(7) といった、上位のプロトコルにおいて実装される。

sin_addr は IP ホストアドレスである。 struct in_addrs_addr メンバには、ホストのインターフェースアドレスを ネットワークバイトオーダーで指定する。 in_addr は、INADDR_* の一つ (例えば INADDR_ANY) を代入する、 ライブラリ関数 inet_aton(3), inet_addr(3), inet_makeaddr(3) を用いる、あるいは名前解決機構 (name resolver) を直接用いる、のどれかで設定すべきである。 (gethostbyname(3) を見よ)。

IPv4 アドレスには、ユニキャストアドレス、 ブロードキャストアドレス、マルチキャストアドレスがある。 ユニキャストアドレスは、あるホストの一つのアドレスを指定する。 ブロードキャストアドレスは、あるネットワーク上の全てのホストを指定する。 マルチキャストアドレスは、マルチキャストグループに所属する 全てのホストを指定する。ブロードキャストアドレスへのデータグラムは、 SO_BROADCAST ソケットフラグがセットされていないと送信・受信できない。 現在の実装では、接続指向のソケットにはユニキャストアドレスしか使えない。

アドレスとポートは常にネットワークバイトオーダーで格納されることに注意せよ。 具体的には、ポートを指定する数値には htons(3) を呼び出す必要がある。 標準ライブラリにあるアドレス/ポート操作関数は すべてネットワークバイトオーダーで動作する。

特別なアドレスがいくつか存在する:

loopback デバイスを通して常にローカルなホストを参照する。
バインドに用いる任意のアドレス。
任意のホスト。歴史的理由から、バインドの際には INADDR_ANY と同じ効果になる。

ソケットオプション

IP にはプロトコル固有のソケットオプションがいくつか存在し、 setsockopt(2) で設定が、 getsockopt(2) で取得ができる。 IP のソケットオプションレベルは IPPROTO_IP である。 ブール整数値のフラグでは、 0 は偽、それ以外は真を意味する。

マルチキャストグループに参加する。 引き数は ip_mreqn 構造体である。


struct ip_mreqn {

struct in_addr imr_multiaddr; /* IP multicast group
address */
struct in_addr imr_address; /* IP address of local
interface */
int imr_ifindex; /* interface index */ };

imr_multiaddr には、アプリケーションが参加または撤退したい マルチキャストグループのアドレスが入る。 指定するアドレスは有効なマルチキャストアドレスでなければならない (さもなければ setsockopt(2) がエラー EINVAL で失敗する)。 imr_address はシステムがマルチキャストグループに参加する際に用いる ローカルなインターフェースのアドレスである。 これが INADDR_ANY であった場合には、適切なインターフェースがシステムによって選択される。 imr_ifindeximr_multiaddr グループに参加/撤退するインターフェースの interface index である。 どのインターフェースでもよい場合は 0 にする。

ip_mreqn は Linux 2.2 以降でのみ利用可能である。 互換性のため、古い ip_mreq 構造体 (Linux 1.2 以降で存在する) もまだサポートされている。 ip_mreqn との違いは、 imr_ifindex フィールドを含まないことだけである。 setsockopt(2) でのみ使える。
マルチキャストグループから抜ける。引き数は IP_ADD_MEMBERSHIP と同様に ip_mreqn または ip_mreq 構造体である。
有効になっていると、ユーザは IP ヘッダをユーザーデータの前に与える。 SOCK_RAW ソケットでのみ有効である。詳細は raw(7) を見よ。このフラグが有効になっていると、 IP_OPTIONS, IP_TTL, IP_TOS は無視される。
ソケットの、既知の path MTU を取得する。 ソケットが接続している場合のみ有効である。 getsockopt(2) でのみ使える。
ソケットの Path MTU Discovery の設定をセット・取得する。 有効になっていると、 Linux はこのソケットに対して RFC 1191 で定義されている Path MTU Discovery を行う。 発信データグラムには、全て「フラグメント不許可」フラグがセットされる。 システム全体に対するデフォルトは、 SOCK_STREAM ソケットに対しては /proc/sys/net/ipv4/ip_no_pmtu_disc ファイルにより制御できる。 その他については無効となっている。 SOCK_STREAM でないソケットに対しては、 ユーザーがデータを MTU のサイズの塊にパケット化したり、 必要な場合には再送したりしなければならない。 このフラグがセットされていると、 カーネルは既知の path MTU より大きなパケットを拒否する (EMSGSIZE となる)。
Path MTU discovery フラグ 意味
IP_PMTUDISC_WANT ルートごとの設定を用いる。
IP_PMTUDISC_DONT Path MTU Discovery を行わない。
IP_PMTUDISC_DO 常に Path MTU Discovery を行う。
IP_PMTUDISC_PROBE DFビットをセットするが、Path MTU を無視する。

path MTU discovery が有効になっていると、カーネルは宛先ホストごとに 自動的に path MTU を処理する。特定の相手に connect(2) で接続した場合には、 IP_MTU ソケットオプションを用いれば、既知の path MTU の取得に便利である (たとえば EMSGSIZE エラーが起きた後など)。これは時間とともに変化するかもしれない。 宛先がたくさんあるコネクションレスなソケットでは、 与えられた宛先に対する新しい MTU にも、 エラーキューを用いてアクセスすることができる (IP_RECVERR を見よ)。 MTU 更新が到着するごとに、新たなエラーがキューイングされる。

MTU discovery の進行中には、データグラムソケットからの初期パケットは 到着しないかもしれない。 UDP を用いるアプリケーションでは、 このことを気にかけておき、 パケットの再送アルゴリズムにこの分を除外させるべきである。

接続していないソケットに対して path MTU discovery プロセスを立ち上げるには、 大きなデータグラムサイズ (最大 64K ヘッダバイト長) からはじめて、 path MTU が更新されるまでサイズを縮めていくことも可能である。

path MTU の値をまず見積もってみるには、宛先アドレスに connect(2) を使ってデータグラムソケットを接続し、 getsockopt(2)IP_MTU オプションとともに呼び、 MTU を取得することである。

IP_PMTUDISC_PROBE (Linux 2.6.22 以降で利用可能) を設定することで、 SOCK_DGRAMSOCK_RAW のソケットで RFC 4821 の MTU 探索を実装することが可能である。 また、この機能は、 tracepath(8) のような診断ツールで特に有用である。これらのツールでは、 観測された Path MTU よりも大きな探索パケットを意図的に 送信しようとする。

ローカルデバイスをマルチキャストソケットとして設定する。引き数は IP_ADD_MEMBERSHIP と同様に ip_mreqn または in_addr 構造体である。
不正なソケットオプションが渡されると、 ENOPROTOOPT が返される。
マルチキャストパケットをローカルなソケットにループバックするかどうかを 定めるブール値の整数引き数を設定・取得する。
このソケットから発信されるマルチキャストパケットの time-to-live 値を設定・取得する。 マルチキャストパケットに対しては、できるだけ小さな TTL に設定することがとても重要である。デフォルトは 1 で、 ユーザープログラムが明示的に要求しない限り マルチキャストパケットはローカルなネットワークから出ないことになる。 引き数に整数を取る。
このソケットから送られるパケット全てに付随する IP オプションを 設定・取得する。オプションを保存しているメモリバッファへのポインタと オプションの長さとを引き数に取る。 setsockopt(2) を呼び出すと、ソケットに関連づけられる IP オプションを設定できる。 IPv4 におけるオプションのサイズの最大値は 40 バイトである。 用いることのできるオプションについては RFC 791 を見よ。 SOCK_STREAM ソケットに対する初期接続要求パケットに IP オプションが含まれていると、 ルーティングヘッダを付けて戻されてくる初期パケットの IP オプションに同じオプションがセットされる。接続が確立された後、 やってきたパケットのオプションを変更することはできない。 デフォルトでは。外部から受信したパケットの全ての source routing オプション の処理は無効となっており、 /proc インタフェースの accept_source_route を使うとこれを有効にできる。これを無効にしていても timestamps など の他のオプションの処理は行われる。データグラムソケットでは、 IP オプションはローカルユーザーしか設定できない。 getsockopt(2)IP_OPTIONS をつけて呼ぶと、現在送信に用いられている IP オプションを 引き数に与えたバッファに取得できる。
IP_PKTINFO 補助メッセージを渡す。これには到着パケットに関する情報を提供する pktinfo 構造体が含まれている。 データグラム指向のソケットでしか動作しない。 引き数は IP_PKTINFO メッセージを通過させるかどうかをソケットに知らせるフラグである。 メッセージ自身は recvmsg(2) または sendmsg(2) を用いたパケットの制御メッセージとしてのみ送受信できる。


struct in_pktinfo {

unsigned int ipi_ifindex; /* Interface index */
struct in_addr ipi_spec_dst; /* Local address */
struct in_addr ipi_addr; /* Header Destination
address */ };

ipi_ifindex はパケットが受信されたインターフェースの、他と重ならないインデックスである。 ipi_spec_dst はパケットのローカルアドレスである。 ipi_addr はパケットヘッダにある宛先アドレスである。 IP_PKTINFOsendmsg(2) に渡されて、かつ ipi_spec_dst が 0 以外の場合、 ipi_spec_dst はルーティングテーブルを検索する際にローカルな送信元アドレスとして使用され、 IP source route オプションを設定するのにも使用される。 ipi_ifindex が 0 以外の場合、このインデックスによって指定されるインターフェースの プライマリローカルアドレスで ipi_spec_dst を上書きし、ルーティングテーブルを検索する。
エラーメッセージの受け渡しに、信頼性の高い拡張された方法を有効にする。 データグラムソケットに対して有効になっていると、 発生したエラーは全てソケットごとのエラーキューに保存される。 ユーザーはソケット操作からエラーを受け取ったとき、 recvmsg(2)MSG_ERRQUEUE フラグとともに呼べばそのエラーを取得できる。 そのエラーを記述する sock_extended_err 構造体が、タイプ IP_RECVERR・ レベル IPPROTO_IP の補助メッセージとして渡される。 これは接続志向でないソケットで信頼性の高いエラー処理を行いたい場合に 有用である。エラーキューの受信データフラグメントには エラーパケットが含まれる。
IP_RECVERR 制御メッセージには sock_extended_err 構造体が含まれる:

#define SO_EE_ORIGIN_NONE    0
#define SO_EE_ORIGIN_LOCAL   1
#define SO_EE_ORIGIN_ICMP    2
#define SO_EE_ORIGIN_ICMP6   3
struct sock_extended_err {

uint32_t ee_errno; /* error number */
uint8_t ee_origin; /* where the error originated */
uint8_t ee_type; /* type */
uint8_t ee_code; /* code */
uint8_t ee_pad;
uint32_t ee_info; /* additional information */
uint32_t ee_data; /* other data */
/* More data may follow */ }; struct sockaddr *SO_EE_OFFENDER(struct sock_extended_err *);

ee_errno にはキューに入っているエラーの errno 番号が入る。 ee_origin にはエラーが発生した場所を示すコードが入る。 その他のフィールドはプロトコル依存である。 SO_EE_OFFENDER マクロは与えられた補助メッセージへのポインタから エラーの発生したネットワークオブジェクトのアドレスへのポインタを返す。 アドレスが不明な場合、 sockaddr 構造体の sa_family フィールドは AF_UNSPEC となり、その他のフィールド値は不定である。
IP は以下のような sock_extended_err 構造体を用いる: ee_origin は、 エラーが ICMP パケットとして受信された場合には SO_EE_ORIGIN_ICMP にセットされ、ローカルで起こった場合には SO_EE_ORIGIN_LOCAL にセットされる。 不明な値は無視される。 ee_typeee_code は ICMP ヘッダの type フィールドと code フィールドの値にセットされる。 ee_info には EMSGSIZE エラーに対する discover された MTU が入る。 メッセージにはエラーを引き起こしたノードの sockaddr_in 構造体も含まれる。 これには SO_EE_OFFENDER マクロを使ってアクセスできる。 ソースが不明の場合、 SO_EE_OFFENDER アドレスの sin_family フィールドは AF_UNSPEC となる。 エラーがネットワークで起きた場合には、 ソケットで有効になっていたすべての IP オプション (IP_OPTIONS, IP_TTL など) とエラーパケットに含まれていたすべての IP オプションとが、 制御メッセージとして渡される。 エラーを起こしたパケットのペイロード (payload) は 普通のペイロードとして返される。 TCP にはエラーキューがないことに注意してほしい。 MSG_ERRQUEUESOCK_STREAM ソケットに対しては使えない。 TCP では IP_RECVERR だけが有効だが、ソケット関数から返されるエラーは SO_ERROR だけになる。
raw ソケットに対して IP_RECVERR を指定すると、受信したすべての ICMP エラーをアプリケーションに 渡すようになる。指定しないと、 接続済みのソケットに対するエラーだけを報告する。
このオプションはブール値のフラグを設定・取得する。 IP_RECVERR はデフォルトではオフになっている。
到着した全ての IP オプションを IP_OPTION コントロールメッセージに入れてユーザーに渡す。 ルーティングヘッダとその他のオプションとは、 ローカルホストに対してはあらかじめ記入されている。 SOCK_STREAM ソケットではサポートされていない。
有効になっていると、 IP_TOS 補助メッセージが到着パケットとともに渡される。 これにはパケットヘッダの Service/Precedence フィールドのタイプを指定するバイトデータが含まれている。 ブール整数値のフラグをとる。
このフラグがセットされていると、 IP_TTL コントロールメッセージが受信パケットの time-to-live フィールドのバイトデータとともに渡される。 SOCK_STREAM ソケットではサポートされていない。
IP_RETOPTS (Linux 2.2 以降) IP_RECVOPTS と等価だが、未処理の生のオプションを、 この hop では記入されない timestamp レコードと route レコードとともに返す。
フォワードすべきパケットを IP Router Alert オプションをつけて このソケットに渡す。 raw ソケットに対してのみ有効である。これはたとえばユーザー空間の RSVP デーモンに対して便利である。タップされたパケットは カーネルによってはフォワードされないので、これらを再送するのは ユーザーの責任となる。ソケットのバインドは無視され、 このようなパケットはプロトコルによってのみフィルタリングされる。 整数値のフラグを取る。
このソケットから送信されるすべての IP パケットに適用される Type-Of-Service (TOS) フィールドを設定・取得する。 これはネットワーク上でのパケットの優先度を決めるために用いられる。 TOS はバイトデータである。標準の TOS フラグがいくつか定義されている。 IPTOS_LOWDELAY はインタラクティブなトラフィックの遅延を最小にする。 IPTOS_THROUGHPUT はスループットを最大にする。 IPTOS_RELIABILITY は信頼性を最高にする。 IPTOS_MINCOST は転送速度が遅くてもかまわないとき、「データを詰め込む」のに用いられる。 これらのうち、 1 つまでだけを設定できる。 他のビットは無効で、クリアされる。 Linux はデフォルトでは IPTOS_LOWDELAY データグラムを最初に送信する。 しかし、正確な振る舞いはキュー処理の設定に依存する。 高い優先度にするにはスーパーユーザー権限 (CAP_NET_ADMIN ケーパビリティ) が必要となるかもしれない。 優先度は (SOL_SOCKET, SO_PRIORITY) ソケットオプションを用いれば、 プロトコルに依存しない形でも設定できる (socket(7) を見よ)。
time-to-live フィールドの値を設定または取得する。 この値はこのソケットから送信されるすべてのパケットに用いられる。

/proc インタフェース

IP プロトコルでは、いくつかのグローバルパラメータを設定するための /proc ファイル群が用意されている。 これらのパラメータには、 /proc/sys/net/ipv4/ ディレクトリ内のファイルの読み書きでアクセスできる。 Boolean と書かれたインタフェースは整数値をとり、 0 以外の値 ("true") は対応するオプションが有効、 0 値 ("false") は無効、であることを意味する。

[2.2.13 で新規登場。以前のバージョンのカーネルでは、この機能は コンパイル時に CONFIG_IP_ALWAYS_DEFRAG オプションによって制御されていた; このファイルは 2.4.x 以降では存在しない]

このブール値のフラグが有効になっている (0 以外になっている) と、 到着したフラグメント (IP パケットの一部で、 発信元と発信先の間のどこかのホストで、そのパケットが 大きすぎると判断され、分割された場合に生じる) は、たとえフォワードされる場合であっても 処理前に再構築 (デフラグメント) される。

ファイアウォールがローカル側のネットワークに唯一のリンクを持っている 場合や、透過プロクシの場合に限って有効にすべきである。 通常のルーターやホストでは決して使用することのないように。 さもないとフラグメントが別のリンクを経由して伝わる場合に、 通信のフラグメント化ができなくなってしまう。 またフラグメント再構築処理はメモリと CPU 時間のコストが非常に大きい。

これはマスカレードや透過プロクシが設定されると、 不思議な仕組みによって自動的に有効になる。

まだ記述していない。
送出されるパケットの time-to-live 値のデフォルトをセットする。 これは IP_TTL オプションを用いれば、パケットごとに変えることもできる。
動的ソケットアドレスと、インターフェースアドレスが変更された際の マスカレードエントリの再書き込みを有効にする。 ダイアルアップインターフェースで、 IP アドレスが変更される場合に便利である。
IP forwarding を有効にするかどうかのブール値フラグ。 IP forwarding するかどうかはインターフェースごとにも設定できる。
ソケットに割り当てられているデフォルトのローカルポートの範囲を定める 二つの整数を与える。割り当ては 1 番目の番号から始まり、 2 番目の番号で終わる。 これらはマスカレードで用いられているポートと重なってはならない (その場合も取り扱われるが)。 ファイアウォールのパケットフィルターが「利用中のローカルポート」 について何らかの仮定をしている場合には、 番号を勝手に決めてしまうと問題が起きるかもしれない。 1 番目の番号は少なくとも 1024 より大きくすべきである。 良く使われるポートとの衝突を避けたり、ファイアウォールの問題を 回避したければ、 4096 よりも大きくするほうが良いだろう。
有効になっていると、デフォルトで TCP ソケットに対する Path MTU Discoverty を行わない。 Path MTU Discovery は、 正しく設定されていない (ICMP パケットを全てドロップする) ファイアウォールや、 (point-to-point リンクで双方の MTU が一致していない場合など) 正しく設定されていないインターフェースが経路上に存在すると失敗してしまう。 Path MTU Discovery をグローバルに無効にするよりは、 壊れているルータを直すほうが良い。 Path MTU Discovery を無効にするとネットワークのコストが 大きくなってしまうからである。
セットされていれば、プロセスが自分以外の IP アドレスを bind(2) できるようになる。これはかなり便利だが、うまく動かないアプリケーションもある。
IPv6 フラグメントをメモリに保持しておく時間 (秒単位)。
IPv6 フラグメントの hash secret の生成間隔 (hash secret の寿命) (秒単位)。
キューイングされている IP フラグメントの量が ipfrag_high_thresh に達すると、キューの内容は ipfrag_low_thresh にまで切り捨てられる。それぞれの大きさを バイト単位で表す整数値が入っている。
arp(7) を見よ。

ioctl

socket(7) に記述されている ioctl は、すべて ip にも適用される。

ジェネリックデバイスのパラメータを設定する ioctl については netdevice(7) に記述されている。

エラー

必要な権限のないユーザーが操作を実行しようとした。 以下のような場合が考えられる: SO_BROADCAST フラグを設定していない状態でブロードキャストアドレスに パケットを送ろうとした。 prohibit なルートを通してパケットを送ろうとした。 スーパーユーザー権限 (CAP_NET_ADMIN ケーパビリティ) なしでファイアウォールの設定を変更しようとした。 スーパーユーザー権限 (CAP_NET_BIND_SERVICE ケーパビリティ) なしで特権ポートにバインドしようとした。
既に使われているアドレスにバインドしようとした。
存在しないソケットが要求された。または要求された ソースアドレスがローカルでない。
非ブロッキングソケットに対してブロックする操作を行った。
非ブロッキングソケットに対する接続操作が既に実行中である。
accept(2) の最中に接続がクローズされた。
宛先アドレスにマッチする有効なエントリがルーティングテーブルに 存在しない。このエラーはリモートルータからの、 あるいはローカルルーティングテーブルへの ICMP メッセージによって引き起こされることがある。
不正な引き数が渡された。送信操作において、 blackhole ルートに送信しようとするとこのエラーが起こることがある。
connect(2) が、既に接続済みのソケットに対して呼ばれた。
データグラムが path MTU よりも大きく、フラグメント化もできない。
空きメモリが足りない。 このエラーは、メモリアロケーションがソケットバッファの 大きさによって制限されていることを意味しているのが通常であるが、 100% そうだというわけではない。
パケットが全く到着していないソケットに対して SIOCGSTAMP が呼ばれた。
カーネルサブシステムが設定されていない。
不正なソケットオプションが渡された。
接続されていないソケットに対して、 接続状態でしか定義されていない操作を行おうとした。
高い優先度を設定したり、設定を変更したり、要求されたプロセスや プロセスグループにシグナルを送ったりするのに必要な権限を、 ユーザーが持っていない。
接続が先方から期待していなかったやり方で クローズあるいはシャットダウンされた。
ソケットが未設定であるか、知らないソケットタイプが要求された。

他のエラーが上層のプロトコルによって生じるかもしれない。 tcp(7), raw(7), udp(7), socket(7) などを参照のこと。

注意

IP_MTU, IP_MTU_DISCOVER, IP_PKTINFO, IP_RECVERR, IP_ROUTER_ALERT は Linux 固有であり、移植性を考慮したプログラムでは 用いるべきではない。 SO_BROADCAST オプションの利用には、くれぐれも注意すること。 これは Linux では特権操作ではない。 不注意なブロードキャストを行うと、ネットワークは簡単に過負荷状態になる。 新しいアプリケーションプロトコルには、ブロードキャストではなく マルチキャストグループを用いるほうがよい。 ブロードキャストは推奨されない。

他の BSD のソケット実装では、 IP_RCVDSTADDRIP_RECVIF といったソケットオプションがサポートされており、 宛先アドレスや受信データグラムのインターフェースが取得できるように なっていることもある。 Linux で同じことをやらせるには、より一般的な IP_PKTINFO が使える。

いくつかの BSD のソケット実装では IP_RECVTTL オプションも提供されているが、タイプ IP_RECVTTL の補助メッセージは受信パケットとともに渡される。 これは Linux で使われている IP_TTL オプションとは異なる動作である。

SOL_IP ソケットオプションレベルは移植性がない。 BSD ベースのプロトコルスタックでは IPPROTO_IP レベルが使用されている。

移植性

Linux 2.0 との互換性のために、 obsolete な socket(AF_INET, SOCK_PACKET, protocol) という書式でも packet(7) をオープンできるようになっているが、これはお勧めできない。今後は socket(AF_PACKET, SOCK_RAW, protocol) を代わりに用いるべきである。主な違いは、ジェネリックなリンク層用の sockaddr_ll アドレス構造体が、古い sockaddr_pkt に変わって用いられるようになったことである。

バグ

エラーの値が全く首尾一貫していない。

IP 固有のインターフェースオプションを指定するための ioctl と ARP テーブルのことが記述されていない。

glibc のバージョンによっては in_pktinfo の定義を忘れているものがある。 現時点でのとりあえずの対策としては、この man ページにある定義をプログラム中に コピーすることである。

recvmsg(2)msg_nameMSG_ERRQUEUE を指定して、受信パケットに入っていた宛先アドレスを取得する方法は 2.2 カーネルの一部でうまく動かない。

関連項目

recvmsg(2), sendmsg(2), byteorder(3), ipfw(4), capabilities(7), netlink(7), raw(7), socket(7), tcp(7), udp(7)

RFC 791: オリジナルの IP の仕様
RFC 1122: IPv4 ホストの必要条件
RFC 1812: IPv4 ルータの必要条件

2009-02-28 Linux